
モチベーションとは?
コンフォートゾーンに戻る力のことをモチベーションと言う
まず初めに、「モチベーション」という言葉の定義から始めましょう。
認知科学では、「モチベーション」のことを「コンフォートゾーンに戻る・維持する力」と定義されています。「コンフォートゾーン」とは、「快適な空間」と訳すことができ、人間は無意識的に慣れ親しんだものや一定の安定した状態を維持しようとする機能を有しています。
「やる気」や「動機付け」という意味合いでのモチベーションは存在しない
「モチベーション」は「コンフォートゾーンに戻る・維持する力」のことを言うのですが、普段職場等で耳にする「モチベーション」という言葉は、どのような意味合いで利用されているのでしょうか?
たいていの場合は、行動を起こすための「やる気」・「動機付け」・「意欲」といった意味合いで利用されているかと思います。しかし、このような意味合いでのモチベーションは、存在しないということが、研究でわかっています。
詳しくはコチラの記事へ
https://brosis.jp/news/24
※マネジメントにおけるモチベーション向上のための内容も載っています!
これ以降、「モチベーション」という言葉は「コンフォートゾーンに戻る・維持する力」という意味合いで利用します。

部下のモチベーションが下がる要因・理由
「モチベーションは存在しない?そんなこと言ったって、今目の前にいる部下のモチベーションが低いのは明らかだぞ!どうやってマネジメントしろと言うんだ!」
そんな声が聞こえてきました。では、
なぜ部下のモチベーションが低いのでしょうか?
どのようなカラクリがあるのでしょうかか?
それは、「現状維持」にモチベーションが働いているからです。リーダーのあなたがどんな言葉をかけても、教育をしても、叱咤激励しても、飲みに連れて行っても部下のモチベーションが上がらないのは、現状維持するというコンフォートゾーンに強烈なモチベーションが働いているのです。
ではもっと深掘ると、なぜそんなに現状維持することに部下のモチベーションが強烈に働いているのでしょうか?様々な要因、理由が考えられるので1つ1つ見ていきます。
やりたい方向で目標設定ができていない
目標というのは、前提として部下が「やりたい」と思える領域で設定する必要があります。部下が心からやりたいと思える領域外で目標設定がされていると、自主的な行動は期待できません。賞罰等の外的なコントロールでしか動かなくなります。そのため、目標というのは部下の「やりたい」ことに内包するかたちで設定をする必要があります。
例えば、「人事になりたい」と考えている営業の部下がいた時、ベストはすぐにその部下を人事に異動させることですが、会社の事情もあるのでそう簡単にはできません。その時は、半年間営業目標を毎月達成したら人事になれる、といったすり合わせをすることで、目の前の営業に対するモチベーションが格段に上がります。それは人事になる、ということにコンフォートゾーンがズレているからです。もちろんですが、目標を達成した暁には人事に異動させましょう。約束を果たさなければ、ただの外的なコントロールで終わり、かつ会社への信頼を失ってしまいます。
そもそも部下のやりたいことが不明瞭
目標は、前提として部下が「やりたい」と思える領域で設定する必要があると記載をしました。ということは、部下の「やりたいこと」を明確にする必要があります。しかし、「やりたいこと」が明確になっていないと、目標に臨場感を抱くことができず、現状維持することにモチベーションが働きます。
先程「人事になりたい」部下の例を記載しましたが、実はこれでは不十分です。人事であることは1つの手段でしかありません。人事になって何をしたいのか、が重要です。深掘って行った先にある真の「やりたい」にたどり着く必要があります。「人事になって何をしたいのか?」を聞き、「組織の構成員が仕事を楽しめる環境を作りたい」、「人を成長させたい」、「組織を調和させたい」といった高次の欲求が見えてくることでしょう。もしそれが今のチームでもできるのであれば、定性的な評価軸として目標設定をするだけでも、その部下のモチベーションは上がるでしょう。
部下に自信がない
やりたいことの前に部下の今の状態を観察する必要があります。特に、自信を持てている状態にあるかどうか、です。ここで言う自信というのは、過去の自分をどれくらい誇りに思えているかどうか、肯定的に思えているかどうか、です。過去の自分に自信がない状態で未来の目標設定をしても、その目標に対して「私ならできる!」と思いづらい傾向にあります。自信のない人は、「どうせ私にはできない...」と次に紹介するネガティブな状態から抜け出せない状態にハマってしまうからです。
ネガティブな状態から抜け出せていない
みなさんは「フロリダ効果」をご存知でしょうか?「フロリダ効果」は心理学者のジョン・バルフらがニューヨーク大学の大学生を対象に行った実験で明らかにされたものですが、言葉がその人の思考や行動に影響を及ぼすというものです。
ネガティブな状態、というのはネガティブな言葉で思考が溢れている状態のことを指します。ネガティブな言葉で思考が溢れていると、それは行動にも影響を与えます。達成できないと思えば、達成できない行動がなされます。やりたいことが見つかっても、どうせ私にはできない、と思えばできません。目標を立ててもワークしません。
そのため、部下がネガティブな状態であれば、そこから抜け出せるようにリードする必要があります。
部下のモチベーションを向上させるためには?具体的な方法について
「部下のモチベーションが低い理由はわかった。じゃあ部下のモチベーションを劇的に向上させるたった1つの方法て何だよ!てか結論から言ってくれよ!」
と、仕事ができるあなたは思っていることでしょう。焦らしてすみません。
その問いに答えると「部下が本当にやりたい領域で目標設定をすること」です。ここで言う目標は、KPIや売上目標といった次元ではなく、その社員が叶えたい未来であり、プロセスが全く見えない目標のことを言います。KPIや売上目標がある時点で、プロセスが見えていると思います。「プロセスが見えない」というのが重要なポイントです。
では具体的にどうやったら部下の本当にやりたい領域で目標設定をすることができるのか。記載していきます。
部下の「やりたい」ことを特定する
まず目標設定をする前に部下が何をやりたいのか、を特定する必要があります。そのやりたいことは、上辺だけの他人の視点で考えたものではなく、本音でやりたいと思えることです。それを特定するためのヒントは、次の3つがあります。
①得意なこと
②夢中になれること
③繰り返ししていること
部下の過去に焦点を当てて、①〜③を探ってみましょう。この中に本当にやりたいこと、その人の才能が隠れています。
「やらなければならない」の呪縛から解き放つ
「やりたい」ことを特定する前に、まずは「やらなければならない」と考えていることを止める必要があります。普段の業務では、やらなければならないことであふれている人が大半です。また、部下のモチベーションアップに困っているあなた自身が、部下に様々なやらなければならないことを強いていると思います。難しい立場ではあると思いますが、部下が「やらなければならないこと」として捉えている業務は何か、向き合いましょう。それがわかることで、その業務自体を「やりたいこと」として捉えているメンバーに委譲させる対策ができます。どうしてもその部下がやらなければならない業務であっても問題ありません。その認識が部下にあるだけで、本当にやりたいことに近付くことができます。
・やらなければならないことを洗い出す
・可能な限り、やりたいこととして捉えている他のメンバーに委譲する
・委譲できなくとも、やらなければならないこととしてやっていることを部下に認識させる
そうすることで、「やらなければならない」の呪縛から解き放たれます。
部下が自信を持てるようにリードする
部下が自信を持てていない状態ならば、過去に対する認識を変えて、自信を持たせる必要があります。過去を変えることはできません。しかし、現在の認識は変えることができます。できなかった思い出だけを振り返っていないか?上手くいったことは?得意だと思うことは?満足感を得た状態は?他人の評価軸で自分のことを考えていない?などなど。自信を高めるためのアプローチはたくさんあります。部下が現在の自分に対して自信を持てるようにエスコートしましょう。
ネガティブな発言が出たら即指摘し、訂正する
「フロリダ効果」で示したように、言葉がその人の思考や行動に影響を及ぼします。ネガティブな発言をしたらネガティブな思考や行動になります。ということは、逆もしかりです。ポジティブな発言をしたらポジティブな思考や行動になります。やりたい領域で目標設定をし、その目標に近付くためには、普段利用する言葉をポジティブなものに変えていく必要があります。部下の普段利用している言葉に細心の注意を払い、ネガティブな発言をしたら指摘をし、他のポジティブな言葉に訂正しましょう。
「短所は行き過ぎた長所」です。「ピンチはチャンス」です。一見ネガティブな状態や状況に見えても、言葉を変えるだけで認識が変わります。
フィードフォワードを用いる
「フィードフォワード」という言葉を初めて聞く方がほとんどかと思います。フィードフォワードとは、未来を起点として改善方法を導き出す方法のことを言います。対となる言葉には、フィードバックがあり、フィードバックは過去を起点として改善方法を導き出す方法です。フィードフォワードをすることで、部下はやりたいことを起点とした未来の目標設定ができる脳になっていきます。
フィードフォワードに関しては、以下資料で詳しく説明をしていますので、ぜひご覧いただければと思います。
https://brosis.jp/materials/1on1-feed-forward/inquiries/new
フィードフォワードに対して、フィードバックが良くないことのように思えますがそのようなことはありません。しかし、使い分けないと上手く機能しないのは事実です。それぞれの脳の使い方が違うので、フィードバックをする際とフィードフォワードをする際は面談の機会を分けて上手く活用しましょう。
部下のモチベーションを向上させるために、部下の本当にやりたい領域で目標設定をしましょう
以上、部下のモチベーションを向上させるために、そもそもモチベーションとは何か、なぜモチベーションが低いのか、上げるためにはどうすればいいのか、をご説明しました。認知科学に基づく考え方になるため、非常に再現性高く色々なシーンで活用できるかと思います。ぜひ今すぐ試してみてください。